2016年12月14日水曜日

「旧原爆医療法」 熱線、爆風被害の給付「予算の制約」で除外



被爆者援護法の前身である原爆医療法(1957年施行)の策定段階で、旧厚生省の原案の中に熱線による被害が救済対象として盛り込まれ、爆風被害も議論されていたことが31日、国立公文書館所蔵の文書で明らかになった。最終的に熱線と爆風は「予算の制約」で除外され、放射線被害だけが対象になった。厚生労働省は放射線被害に限定する理由について「一般戦災者と原爆被爆者を区別するため」と説明してきたが、背景に予算があったことが初めて表面化した。原爆症認定を巡る集団訴訟や、政府が進める原爆症認定基準の見直し作業に影響しそうだ。

文書には、旧厚生省担当局が作成した原爆医療法の複数の原案や、閣議上申に至る経緯などが含まれている。近畿訴訟の弁護団が要求し、国が07年9月に「原爆医療法の立法関連資料」として大阪地裁に提出した。
当時、同法は▽厚生省担当局が原案を起案▽同省官房総務課が審議▽内閣法制局が審議▽閣議上申▽国会審議--という流れで策定され成立した。
文書によると、第1次原案(56年12月12日作成)では、医療給付対象を「負傷または疾病が原子爆弾に基づく放射線または熱線に起因し、かつ現に医療を要すると認められる者」と規定。その後の「途中整理案」や第7次原案(57年1月9日)、参院法制局案なども同様の文言で熱線被害を含めていた。
だが官房総務課の審議結果(57年2月3日)には「被爆者に限定せず、死亡者や爆風による障害者に対する措置を含めるべきだとの議論もあったが、予算の制約により限定せざるを得なかった」や「熱線に起因するものを除外しないとすれば、爆風被害を除外して熱線被害だけを含めることへの説明が必要」などの記載があり、最終法案から熱線・爆風被害が除外された。
現行の被爆者援護法は、原爆医療法と原爆特別措置法(68年施行)を統合して94年に制定された。医療給付などの対象を放射線被害に限ったのは、原爆医療法を受け継いだ。
原爆症訴訟近畿弁護団の藤原精吾団長は「原爆医療法について最高裁が78年に『実質的に国家補償的配慮が制度の根底にあることは否定できない』と判断したのに、予算の制約があったとは驚くべきことだ。立法時の切り捨ての論理が被爆者行政に反映され、現在に継承されている」と批判している。【岩崎日出雄】

▽原爆症認定集団訴訟を支援している田村和之・龍谷大法科大学院教授の話 
原爆医療法の立法過程で、熱線や爆風による傷害が、どうして医療特別手当の対象から外れたのか、議論があったことは承知していた。どの程度の検討があったのか、詳細に精査する作業が必要だ。政府は当初、被爆者健康手帳保持者は原爆症を発症する可能性がある人ととらえていたが、その後の法改正で解釈を狭めていったことがうかがえ、原爆医療法制定時の趣旨を整理してみたい。

【ことば】◇原爆症認定◇ 
厚労省によると、07年3月末現在、被爆者手帳の所持者は25万1834人。うち疾病が原爆に起因し今も治療が必要な「原爆症」と認定された被爆者には、月約13万7000円の医療特別手当が支給される。しかし認定者数は2242人(0・9%)にとどまり、「遠距離被爆」などはほとんど認定されない。このため、03年以降に計295人が国の認定基準は不当として提訴。06年5月の大阪地裁判決から07年7月の熊本地裁判決まで6件連続で国が敗訴(いずれも控訴)した。

毎日新聞 2008年1月1日