2017年3月9日木曜日
被爆者健康手帳交付等請求事件(被爆体験者訴訟)平成24年6月25日判決 長崎地裁
(長崎地裁平成19年(行 ウ)第15号,同20年(行ウ)2号,同7号,同10号,同11号,同13号,同14号, 平成24年6月25日判決)
本件は,長崎市に原子爆弾が投下された当時,爆心地から7.5ないし12キロ メートル離れた地域にいたX1(原告)らが,被爆者援護法(以下「法」とい う。)及び同施行規則に基づき,長崎市長及び長崎県知事に対し,被爆者健康手 帳の交付申請及び健康管理手当の認定申請を行ったところ,同市長らから,X1 らの被爆地点が同施行令で定められた被爆地域に該当しないこと等を理由に申請を却下する処分を受けたため,Y1(長崎市,被告)及びY2(長崎県,被告) に対し,同処分の取消し及び被爆者健康手帳の交付の義務付けを求めるとともに,Y3(国,被告)に対し,X1らが所在した地域を法1条1号の区域として政令に定める義務があることの確認を求め,さらに,Y1らに対し,国賠法1条1 項に基づき,一人当たり1,000円の損害賠償を求めるなどしたものである。
本判決は,要旨以下のとおり判示して,X1らの訴えを一部却下し,請求を一 部棄却した。なお,本件訴訟提起後に死亡した者が提起した訴訟については, 相続人による訴訟承継は認められないとして,訴訟終了宣言をした。
①(政令制定義務存在確認請求及び政令制定不作為違法確認請求に係る各訴えの適法性)国民は,国に対し,政令を定めることを求める権利を具体的な権 利として有するものではないから,各訴えは,いずれも当事者間の具体的な権 利義務ないし法律関係の存否に関する紛争に当たらないことが明らかであり, 裁判所法3条1項にいう「法律上の争訟」に当たらない。
②(被爆者地位確認 請求に係る訴えの適法性)本件請求は,特定の者が被爆者健康手帳の交付を受 けていない段階で法1条3号に該当する者としての地位にあることの確認を求めるものであり,また,過去の法律関係の確認を求めるものであるから,確認の利益がない。
③(健康管理手当支払請求に係る訴えの適法性)健康管理手当 の支給請求権(受給権)は,都道府県知事等に対して健康管理手当の支給認定 を申請した者がその認定を受けることにより具体的な権利として取得するものであり,都道府県知事等による上記支給認定を受けるまでは,訴訟上,健康管 理手当の支払を求めることはできない。
④(訴訟承継の成否)被爆者健康手帳 の交付を受けて被爆者援護法所定の援護を受けることができる権利は,当該被 爆者に与えられた一身専属的なものであって,相続の対象にならない。した がって,被爆者健康手帳交付申請却下処分の取消訴訟及び健康管理手当支給認 定申請却下処分の取消請求を提起した原告が死亡したときは,その相続人において,上記各訴訟における原告の地位を承継することはできず,上記各訴訟は, 上記死亡により終了する。
⑤(法1条3号の要件該当性及びY1及びY2の却下 処分の違法性)同号にいう「身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった」とは,原爆の放射線により健康被害を生ずる可能性がある事 情の下にあったことをいい,「原爆の放射線により健康被害を生ずる可能性が ある事情の下にあった」との事実が存在することにつき,X1らにおいて高度 の蓋然性を証明することが必要であるところ,X1らにはかかる証明がない。 よってY1及びY2が,X1らの被爆者健康手帳交付申請を却下した処分に違法 はないから,X1らが提起した被爆者健康手帳交付義務付け請求に係る訴えは, 訴訟要件を欠く。
⑥(健康管理手当支給認定申請却下処分の違法性)X1らは, いずれも被爆者健康手帳の交付を受けていないのであるから,健康管理手当の 支給要件を欠くことが明らかであり,Y1及びY2がX1らの健康管理手当の支 給認定申請を却下した処分に,違法はない。
⑦(国賠請求)原爆投下当時に X1らが所在した各地点は,爆心地から7.5キロメートル以上離れた場所にあり,いずれも法1条1号の科学的知見に係る地域(爆心地から約5キロメートルま での範囲内の地域)の範囲外にあるから,Y3が,政令において上記各地点を同 号の「隣接する区域」として定めなかったことは,合理性を欠くとはいえず, 国賠法1条1項の適用上,違法ではない(控訴)。
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